執筆:上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役|大手企業・公的機関で延べ15,000名以上にSNS研修を実施)
マーケットインとは、お客様のニーズに合わせてビジネスを作っていく考え方です。18年間赤字だったハウステンボスがV字回復した背景にも、この発想の転換がありました。
ただし1つだけ落とし穴があります。お客様は、自分の本当のニーズを正しく言葉にできないことがあるのです。だから「言われたこと」ではなく「起きていること」を見にいく必要があります。
- ハウステンボスがV字回復したときに何を変えたのか
- マーケットインとプロダクトアウトの違い
- マーケットインを個人ビジネスに落とし込むときの唯一の注意点
- お客様の「本当のニーズ」を見つけるための考え方
大好きなハウステンボス(長崎県・佐世保市)は、18年間赤字が続いたあとにV字回復を果たしたテーマパークです。この再建のプロセスには、個人の起業家でもそのまま応用できるマーケットインの考え方が詰まっています。今回はそれを、私自身の失敗談とあわせて解説していきます。
ハウステンボスはなぜV字回復したのか

18年間、黒字にできなかったテーマパーク
ハウステンボスは1992年に「オランダの街並みを再現」というコンセプトで開園しました。ところが新規もリピートも苦しく、開業から18年間、黒字化できないままだったのです。
2010年、HISの創業者である澤田秀雄さんが社長に就任します。そしてわずか1年で黒字化を達成し、大きな注目を集めました。
やったのは「お客様に合わせて作り直す」ことだった
2013年のインタビュー記事で、澤田さんは園内の作り替えについて語っています。広い園内をファミリー・シニア・若いカップルという3つのエリアに大別し、それぞれに特徴を持たせたというのです。例えばシニア向けのエリアでは、花をよりゆっくり見られるようにする。そこにイベントやショーを次々と導入していきました。
冬の集客についても印象的な話が残っています。寒いから難しいと社員が諦めていたところに、フランスのリヨンで行われるライトアップに400万人規模が集まると聞き、実際に見に行って即導入を決めたそうです。理由はシンプルで、「一度来てつまらないと思われれば、2度と来られない」から。ここから生まれたのが、冬のイルミネーションでした。
別のインタビュー(PHPオンライン「とにかく行動、ダメなら修正」)でも、季節に合わせたイベントで来場者を明確にしていった経緯が語られています。夏休みは子ども連れや若者が多いので人気漫画やアイドルグループとのコラボ企画を、人が少なくなる秋には熟年層を狙ってガーデニングの国際大会を。狙いどおりシニア層がたくさん来場したそうです。
つまり、旅行業界で長く活躍されてきた澤田さんが、自分たちのやりたいことを優先するのではなく、お客様が求めているものに合わせて作り直した。これがV字回復の背景にあった、と分析できます。
ちなみに澤田さんは、社長就任のオファーを2度断っていたそうです。自分は現地の人ではないから、というのが理由でした。3度目にアポなしで熱いオファーを受けて引き受け、それからは現地に引っ越して、1年の半分以上を過ごしたと記されています。
その後のハウステンボス
澤田さんは2019年に社長を退任し、2022年にはHISからハウステンボスの株式が香港の投資会社へ譲渡されました。運営体制は変わりましたが、「お客様に合わせて作り直す」という考え方自体は、体制が変わっても古びません。だからこそ、個人のビジネスにも持ち込む価値があると思っています。
マーケットインとプロダクトアウトの違い
どちらが正解というものではありませんが、スキルはあるのになぜかうまくいかないという方の場合、実際にヒアリングをしていると、マーケットインでビジネスが作れていないことが多くあります。
この考え方は、ビジネスを習う機会がないと、なかなか教えてもらえないものでもあります。
マーケットインで気をつけるべき、たった1つのこと

お客様は、本当のニーズを言語化できていないことがある
お客様の行動を考え、ニーズをリサーチして実行していくマーケットインは重要です。ただ、一方で注意も必要です。それは「お客様は本当のニーズを言語化できていないことがある」ということ。
言い方を変えると、お客様は本当のニーズを理解できていないことがあるので、正しく言語化できないのほうが適切かもしれません。
オイリー肌だと思い込んでいた私の話
実際に私にあったことなのですが、ニキビができやすかった頃、「私はオイリー肌だからニキビができやすいんだ」と思い込んでいました。
雑誌のチェックリストを見ても、オイリー肌の項目に並ぶのはこんなものです。
- Tゾーンにテカリがある
- 吹き出物ができやすい
- 毛穴が開いている
そもそも標準がわからないですし、コンプレックスは気になるので全部チェックしたくなります。この〝標準を知らない〟という状態が、初心者をよくあるミスに陥らせてしまうので、すごく恐ろしいのです。
例えば「吹き出物が毎週3個以上できる」と書いてくれれば正しく○×がつけられます。でも、毎月1回だけ2個くらいでも、その2個が気になったら「できやすい」に○をしたくなるのは私だけでしょうか。毛穴も同じで、大きさの指示がない限り、該当者は全員ですよね。
その後、いくつかのエステサロンに行くと、どこでも「お肌がちょっと乾燥肌ですね」と言われました。オイリー肌だと信じ込んでいただけに衝撃を受けましたが、何名ものエステティシャンの方に言われると信じざるを得ません。
かつての私のようにネットで調べて自分で購入していたら、「オイリー肌用のスキンケアセットが欲しい」となってしまうところでした。根本の解決になっていないので、悩みはなかなか良くなりません。実際にプロに肌を見ていただいて、自分に合ったものをご提案いただけるようになってから、学生時代は肌をコンプレックスに思っていたのが嘘のように、肌を褒めていただけることが増えました。
「投稿時間が悪いんですか?」も、まったく同じ構造
同じことが、SNS集客のご相談でも起きています。
「文章を書いているけれど、集客ができません。投稿時間の問題ですか?」
「毎日発信しているのに集客ができません。ハッシュタグが間違っていますか?」
本当の原因はそこではないのに、ということがよくあります。私の肌の例とまったく同じ構造です。
本当のニーズを理解せずに商品・サービスを提供してしまうと、ズレが生じます。だから受け取る側としては、本質の悩みやニーズまで理解してくれる人に依頼することが重要です。そして自分が提供する側のときこそ、お客様の本当のニーズを探る力が欠かせません。
本当のニーズは、言葉ではなく行動に出る

ここまでの2つの話には、実は共通点があります。
澤田さんは現地に引っ越して、1年の半分以上を園内で過ごしました。エステティシャンの方は、私の自己申告ではなく、私の肌そのものを見ました。どちらも「言われたこと」ではなく「起きていること」を直接見にいっているのです。
個人のビジネスに置き換えるなら、アンケートの回答欄より、お客様が実際にどの投稿で立ち止まったか。「こういう講座がほしい」という言葉より、相談のときに何度もこぼれた一言。言葉は後づけでも、行動は嘘をつきません。
マーケットインは「お客様の言うとおりに作ること」ではありません。お客様が本当に困っていることを、本人より先に言語化してあげることです。ここまでできて初めて、〝あなただからこその商品・サービス〟になっていきます。
よくある質問(FAQ)
マーケットインとプロダクトアウト、個人はどちらを選ぶべきですか?
どちらかを捨てる必要はありません。ただ「スキルはあるのに、なぜか売れない」という状態のときは、たいていプロダクトアウトに寄っています。自分が作りたいものを、お客様の言葉に翻訳し直すところから始めてみてください。
アンケートを取れば、お客様のニーズはわかりますか?
手がかりにはなりますが、それだけでは足りません。お客様は自分の状態を正しく言葉にできないことがあるからです。回答そのものより、どんな投稿で立ち止まったか、相談のときに何度も口にしたことは何かといった行動のほうが、本当のニーズに近いことがあります。
お客様の言うとおりに作れば、マーケットインになりますか?
なりません。むしろ危険なこともあります。「オイリー肌用のスキンケアがほしい」と言われて、そのとおりに渡してしまうのと同じだからです。プロの仕事は、言われたものを渡すことではなく、本当に必要なものを見立てて提案することだと考えています。
大企業の事例は、個人には参考になりませんか?
規模や金額を追うと他人事に聞こえてしまいますが、「誰に向けて、何を変えたのか」という部分だけを抜き出せば、個人でもそのまま使えます。ハウステンボスの場合、それは「広い園内を対象者ごとに分けた」というシンプルな一手でした。
まとめ
18年間赤字だったハウステンボスがV字回復したのは、お客様に合わせて作り直したから。個人のビジネスでも、同じことが起こせます。
ただし忘れないでいただきたいのが、お客様は本当のニーズを言葉にできないことがあるということ。言われたことをそのまま形にするのではなく、その奥にある「本当はどうなりたいのか」まで一緒に見つけにいく。そこまでできる人が、選ばれ続けるのだと思います。
著者プロフィール|上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役)
マーケティングの本質×SNSのトレンドを掛け合わせた、SNSからの女性集客を専門としている。14歳でメールマガジンを始め、8ヶ月で20,000人の登録を達成(当時の歴代最年少記録)。個人・法人の500件以上のSNSアカウントを個別に指導し、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など、全国で延べ15,000名以上へ講演・研修を実施。
🎯 〝あなただからこその商品〟の作り方を、毎週お届けしています
SNS集客・女性集客・マーケティングの考え方を、毎週月曜22時にお届けしています。お客様の本当のニーズの探り方も、メールマガジンで具体的にお伝えしています。
研修・講演・セミナーのご依頼は株式会社PR NETのお問い合わせフォームより承っております。