執筆:上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役|大手企業・公的機関で延べ15,000名以上にSNS研修を実施)
Threadsのやさしい空気が心地よくて、私もよく拝見しています。攻撃的な言葉が少なく、ギスギスした空気もない。誰かを論破したり張り合うよりも、「共感」や「日々の気づき」をそっと共有するような、穏やかな場所です。
でも──ある日、ビジネス系の投稿をリサーチしていて、ふと感じたのです。
この“やさしさ”、もしかしたら一周回って、誰かを傷つけていないでしょうか。
共感が集まりやすい場所は、同時に「反論が届かない場所」にもなります。だからこそThreadsでは、名指しされていない誰かが一方的に傷つくことが起こり得るのです。
そしてその背景には、承認欲求をSNSだけで満たそうとする時代の空気があります。私たちが本当に求めているのは、半径2メートルの人が「大丈夫だよ」と言ってくれること。そちらが満たされていれば、誰かを裁いてまで「わかってほしい」と叫ばずに済むのだと思います。
- Threadsの「やさしい共感」が、なぜ一方的な告発を生みやすいのか
- 店名を書かなくても、お店が特定されてしまう仕組み
- 「共感できない私のほうが冷たいのかも」という空気の正体
- 投稿する前に確かめたい3つの問い
- 5億アカウントを超えたThreadsの今と、これからの向き合い方
「やさしい共感」が、正義になるとき
Xでは、誰かを批判するような投稿には、少なからず「自分にもリスクがある」という前提があります。
たとえば、モヤっとした接客体験があったとき。それを言語化して投稿するには、やはり躊躇があります。なぜならその体験には、「相手にも事情があったかもしれない」「自分にも非があったかもしれない」と思える部分が、たいてい残っているからです。
実際にXでは、「それはあなたにも原因があるのでは?」という反論が寄せられることも多々あります。
でも、Threadsでは──その反応が、あまりないのです。共感、応援、スタンプのリアクションが並び、「あなたは悪くない」という空気が、自然に形成されているように感じます。
匿名で「正義」を振りかざす危うさ
以前、心を痛めた出来事がありました。
あるリラクゼーションサロンでの出来事を、投稿者の方が詳細に語っていたのです。その文章には、サロン名こそ書かれていませんでした。けれど場所や雰囲気、メニューなどから、どこなのかがすぐに推測できるような内容でした。
今の時代、内観のお写真を撮影すればGoogleレンズで探すことができます。「◯◯駅から何分くらいのところにある◯◯◯のサロン」とウリにしていることを書けば、それだけで検索にヒットします。
「◯◯という対応をされてすごく傷ついた」
「これって、私が悪いんでしょうか…」
そんな投稿に共感のスタンプが押され、「ひどすぎる」「絶対行かない」といった声が並びます。
でも、私が想像してしまったのは──そのサロンを運営しているオーナーさんのことでした。
きっと日々、心を込めてお客様を迎えている。それなのに、たった1人のスタッフさんの一瞬の対応が、そのお店全体を“加害者”にしてしまう。しかも、匿名という安全な場所から、一方的に。
間近で見たのはリラクゼーションサロンさんでしたが、起業塾の話もあれば、美容院やネイルサロン、飲食店さんのものも見かけたことがあります。
全体像は知る由もないので、私の感想なんて意味がないと思いつつも、「これが本当なら明らかにひどい……」と感じてしまうものもあれば、「これは一人の方の行動であって、オーナーさんはどんな想いで頑張ってきたのだろう」と思うものもあるのです。
起業塾系の話で言うと、先生からお仕事をいただき契約書もあったそうですが、「こんなの安すぎる」「利用されている」という旨の内容を見かけたことがありました。
私はというと、騙された契約内容ではなく、事前に説明がしっかりあったのなら、こう思ってしまうのです。
「会社が新卒の人、未経験の人にもお給料をくれたり、ときには勉強代まで出してくれるのがありがたいことであって、実力を高めるのにほぼ無給に近い下積みをたくさんして、タイムラグで成果が来るものなのだけれど」
そう思いながらコメント欄を見ると、自分の考えと真逆のコメントばかりが並んでいて、驚いたものです。
やさしさの正体が、だんだん怖くなる
Threadsの空気感は、あたたかいようで、とても“無敵”です。
なぜなら「私、被害者です」と言えば、どこからか共感が集まるから。疑いの余地なく、寄り添ってもらえるからです。
それが心の支えになることも、もちろんあります。けれど一方で、「この方、ちょっと過剰ではないかな」と思ったとしても、反論しづらい空気もあるのです。
「共感できない私のほうが冷たいのかも」
「この空気を壊すのが怖い」
そんな感覚に、身に覚えのある方もいるのではないでしょうか。
Threadsの“やさしさ”が生んだ空気の正体
なぜ、Threadsではこうした「共感ありきの投稿」が広がっているのでしょうか。
私なりの考えですが──やはり背景には、「承認欲求」をSNSで満たさなければならないという、今の時代の空気があるのではないかと思うのです。
- いろんな方から「いいね」をもらえると、嬉しい
- 「あなたは悪くないよ」と言ってもらえると、安心する
- 「こんなひどい目にあった」と発信すれば、誰かが寄り添ってくれる
それ自体が悪いわけではありません。人に認められたいと思うのは、自然なことです。
でも、その“安心”や“共感”をSNSの世界だけに求めるようになったとき、誰かを批判したり、自分の正当性だけを主張するような投稿が生まれてしまう。そう感じることが、増えてきたのです。
半径2メートルのやさしさに、立ち返る
そう考えると、私たちが本当に求めているのは、SNSの「共感」ではなく、日常の中で実感できる“つながり”なのかもしれません。
- 半径2メートルの人に、喜んでもらえること
- 半径2メートルの人に、悩みを聞いてもらえること
- 半径2メートルの人に、「大丈夫だよ」と言ってもらえること
この距離にあるやさしさが、自分の中の不安や承認欲求を自然と満たしてくれます。だからこそ、わざわざSNSで誰かを批判してまで「わかってほしい」と叫ばなくても済むのだと思います。
投稿する前に、確かめたい3つの問い
とはいえ、嫌な思いをしたときに、それを書いてはいけないという話ではありません。私が大切にしたいのは、投稿ボタンを押す前に一度だけ立ち止まる、という習慣のほうです。
3つとも「書くな」という問いではありません。自分が何に傷ついたのかを、相手を裁かずに書けているかを確かめるための問いです。
あれから1年、Threadsは「やさしいSNS」のままなのか
この記事を最初に書いたのは2025年の夏でした。それから1年で、Threadsは規模も機能も大きく変わっています。
数字を眺めていて思うのは、5億人が集まる場所に、たったひとつの空気はないということです。
コミュニティ機能が加わり、話題ごとに人が集まるようになりました。やさしい場所もあれば、そうでない場所も生まれます。「Threadsはやさしいから安心」と一括りにするのではなく、自分がどの空気の中にいるのかを選ぶこと。それが、これからの向き合い方なのだと思います。
よくある質問(FAQ)
Threadsで嫌な体験を投稿すること自体が、いけないのでしょうか。
そうではありません。自分が何に傷ついたのかを言葉にすることは、心を守るために大切なことです。分かれ目は、その言葉が特定できる形で書かれているかどうか。相手を名指しせずに、自分の感情だけを書くことはできます。
お店の名前を書かなければ大丈夫でしょうか。
名前を書かなくても、たどり着ける場合があります。内観のお写真はGoogleレンズで探せますし、「◯◯駅から徒歩何分」「◯◯が人気のサロン」といった特徴は、そのまま検索キーワードになります。判断の基準は「書いたかどうか」ではなく「たどり着けるかどうか」です。
共感のコメントが並んでいるとき、違和感を言葉にしてもよいのでしょうか。
「それは違う」と否定する形ではなく、「別の見え方もあるかもしれません」と置く形なら伝えられます。ただ、無理に空気を壊す必要もありません。何も書かずに、そっと離れることも立派な選択です。
Threadsは、発信の場としては向いていないということでしょうか。
むしろ向いています。共感が届きやすい設計は、日々の気づきを積み重ねていく発信ととても相性がよいのです。批判ではなく、自分が大切にしていることを書き続ける。その使い方であれば、やさしさはそのまま強みになります。
まとめ
私もまだ、もやもやしています。でも、こうして立ち止まって考えたり、言葉にしてみることが、ひとつの気づきにつながる気がしています。
SNSは本来、誰かとつながるためのもの。それが“誰かを裁くための道具”になってしまったら、本末転倒です。
やさしさとは「共感すること」よりも、「距離を近づけて、声をかけ合える関係をつくること」なのではないでしょうか。
この記事が、そんな本当のやさしさを思い出すきっかけになったら嬉しいです。ご一読をありがとうございました。
マーケティングの本質×SNSのトレンドを掛け合わせた、SNSからの女性集客を専門としている。14歳でメールマガジンを始め、8ヶ月で20,000人の登録を達成(当時の歴代最年少記録)。個人・法人の500件以上のSNSアカウントを個別に指導。これまでの登壇・研修先は、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など。全国で延べ15,000名以上へ講演・研修を実施している。
トレンドの追いかけ方から、言葉の選び方、女性集客につながる発信の設計まで。毎週月曜22時にお届けしているメールマガジンです。
マーケティングの本質×SNSのトレンドを掛け合わせた、SNSからの女性集客を専門としている。14歳でメールマガジンを始め、8ヶ月で20,000人の登録を達成(当時の歴代最年少記録)。個人・法人の500件以上のSNSアカウントを個別に指導。これまでの登壇・研修先は、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など。全国で延べ15,000名以上へ講演・研修を実施している。