執筆:上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役|大手企業・公的機関で延べ15,000名以上にSNS研修を実施)
伝わる発信は、「何を伝えるか」ではなく「相手が今どこにいるか」を知るところから始まります。正しい情報を、正しい順番で話しても、相手の現在地とずれていれば届かないのです。
広島県での研修の前日に訪れた「ウサギの島」で、私はそのことを改めて実感しました。この記事では、その体験と、私が相手の現在地を知るために普段していることをお伝えします。
- 一生懸命に説明しているのに伝わらないとき、何が起きているのか
- 「簡単すぎて届かない」「難しすぎて届かない」の両方が起こる理由
- 相手の現在地を知るために、私が普段している3つのこと
- 次の投稿をつくる前に確かめたい3つの問い
一生懸命に説明しても、伝わらないことがあります
「一生懸命説明しているのに、なぜか伝わらない」
「役立つ情報をたくさん届けたのに、相手の反応があまりない」
そんな経験はありませんか。
私は、SNSの研修やセミナーで年間に何度も登壇していますが、伝わる発信をつくるうえで、いちばん大切なのは話す内容そのものではありませんでした。
先週、広島県の皆様に向けて、SNSや伝え方についてお話しする機会をいただきました。60名以上の方が参加してくださった研修です。
その前日に訪れた場所での体験が、この記事のきっかけになっています。
研修の前日、広島県の「ウサギの島」へ行きました
訪れたのは、広島県竹原市にある大久野島です。ウサギがたくさん暮らしていることから「ウサギの島」として知られている場所です。
私はウサギが好きなので、以前から行ってみたいと思っていました。ただ、今回はそれだけではありませんでした。
5年ほど前にも広島を訪れ、そのときは宮島へ行きました。厳島神社の大鳥居が工事中だった時期です。もちろん、宮島は広島を代表するすばらしい場所です。
けれど今回は、研修でお話しする皆様のこと、そして広島のことを、もう少し深く知りたいと思っていました。「広島といえば」ですぐに思い浮かぶ名所だけではなく、少し違う場所にも足を運んでみたい。その中で特に興味を持ったのが、大久野島でした。
人が多い場所のウサギは、少しツンとしていました
島に着いて、まず休暇村の近くでたくさんのウサギを見つけました。
とてもかわいかったのですが、人が多く、普段からたくさん餌をもらっているからでしょうか。ウサギたちは、少しツンとした様子でした。
「ウサギの島だけれど、意外と駆け寄ってはこないのだな」
最初はそう思っていました。
島の奥まで歩いたら、数十メートル先から駆け寄ってきました
大久野島は、1周すると1時間ほどで回れると言われています。人が多く集まる休暇村を離れ、テニスコートの方まで歩いていくと、人の姿がぐっと少なくなりました。
すると、数十メートル先にいたウサギが、こちらへ向かって走ってきたのです。
1羽だけではありません。遠くにいたウサギたちが、私を見つけて次々と駆け寄ってきます。先ほどまでのツンとした様子とは、まるで違いました。
その後に訪れた北部砲台跡などでも、ウサギたちの反応はとてもよく、島の奥まで歩いたからこそ出会えた光景がありました。
もし私が休暇村の近くだけを見て帰っていたら、「ウサギはかわいかったけれど、あまり交流できなかったな」という感想で終わっていたかもしれません。
ウサギたちからしたら、交流を目的にこの島にいるわけではないので、こちら都合の感想ではあるのですが。
それでも、たまたま奥まで歩いたことで、ウサギが遠くから走ってきてくれる、忘れられない体験ができたのです。
その話を研修の冒頭でしたら、会場の空気が変わりました
会場の7割ほどの方が、手を挙げてくださいました
研修の冒頭で、私は皆様に尋ねました。
「私は昨日、大久野島へ行ってきたのですが、皆様の中で大久野島へ行かれたことがある方はいらっしゃいますか?」
すると、会場の7割ほどの方が手を挙げてくださいました。ウサギが数十メートル先から駆け寄ってきてくれた話をすると、笑ってくださる方がいました。顔を上げて、こちらを見ながら聞いてくださる方も増えました。
私はそこで、広島での皆様のお仕事について感じたことをお伝えしました。
観光業に携わる方がいてくだされば、訪れた人がその土地で得られる体験を、もっと豊かにできる。ガイドブックに載っている場所を案内するだけではなく、その人だけではたどり着けなかった景色や物語へ、連れていくことができる。
大久野島での体験を通して、私はその価値を実感していました。だからこそ、そのままの言葉でお伝えすることができたのです。
現地の方だけが知っている話には、これから価値が生まれます
さらに研修後には、ある方が、大久野島になぜウサギがいるのかについて、私がインターネットでは見つけられなかった話を教えてくださいました。
AIに尋ねれば、一般的な観光情報はすぐに分かります。けれど、その土地を長く見てきた人の記憶や、実際に歩いた人だけが知っている感覚までは、すべて検索で見つかるわけではありません。
現地にいる方だからこそ知っている話には、これからますます価値が生まれると思います。これは観光に限らず、どのお仕事にも言えることではないでしょうか。
私は「簡単すぎて届かない」も「難しすぎて届かない」も経験しました
今回は、いきなりSNSの機能や伝え方を説明するのではなく、まず自分が広島で体験したことから話しました。それが、皆様との距離を少し縮める入口になったのではないかと感じています。
一方で私はこれまで、相手の現在地を十分に理解できないまま話し、うまく伝えられなかった経験もあります。
すでに知識のある方に、基本の話をしてしまったとき
都内の起業家向けセミナーでは、すでに多くの知識をお持ちの方もいらっしゃいます。基本的な内容が続けば、「そのくらいは知っています」と感じられることがあります。
文字を入れることが大きな一歩の方に、文字サイズの話をしてしまったとき
地方で60代以上の方が多く参加される研修では、Instagram(インスタグラム)を見たことはあっても、フィード、リール、ストーリーズの違いがまだ分からない方もいらっしゃいます。
その方々が第一線で働いていた40代、50代の頃には、今のようにスマートフォンが身近にある社会ではありませんでした。その背景を考えず、いきなりリールの編集方法やCanvaの文字サイズを説明しても、難しく感じるのは当然です。
文字の大きさを調整する前に、そもそも画像へ文字を入れることが、大きな一歩かもしれないのです。
正しい情報を話せば伝わる、わけではないのです
私は、簡単すぎて届かなかった経験と、難しすぎて届かなかった経験の両方をしてきました。
そこで気づいたのです。
正しい情報を話せば、伝わるわけではない。伝える前に、相手の現在地を知らなければならないのです。
内容の質を上げることばかりを考えていた頃は、ここに気づけませんでした。同じ資料でも、届く相手と届かない相手がいる。その差は、資料ではなく順番にあったのです。
相手の現在地を知るために、私が普段していること
セミナー前のアンケートを読む
今は、セミナー前のアンケートを読み、どのような方が参加されるのかを確かめるようにしています。事前に一言でも書いていただけると、当日の入口が大きく変わります。
主催者の方に、参加される方のことを伺う
主催者の方には、どのような方が参加されるのかを必ず伺います。継続講座では、月に複数回のグループコンサルティングを通して、皆様が今どこで困っているのかを直接伺っています。
自分で調べ、その仕事に敬意を持てるところまで理解する
主催者の方も参加者について詳しく把握されていない場合は、参加する方々の職業や背景を自分で調べます。
何を話せば喜ばれるかを探すだけではありません。その方たちが、普段どのような仕事を担っているのか。どこに難しさがあり、どのような価値を届けているのか。私自身が、その仕事に敬意を持てるところまで理解してからお話ししたいと思っています。
これは、SNSの発信でもまったく同じです
私たちはつい、「自分は何を伝えたいか」から投稿を考えます。けれど、その前に知る必要があるのは、相手のことではないでしょうか。
投稿をつくる前に確かめたい、3つの問い
- 相手は、今どこまで知っているのか
- どこで分からなくなっているのか
- どのような経験なら、自分のこととして受け取れるのか
共感とは、ただ「分かります」と言うことではありません。相手が大切にしている世界を知ろうとし、ときには自分の足で、その場所まで歩いてみることなのだと思います。
伝えるとは、自分の知識を相手に渡すことではなく、相手がいる場所から、一緒に歩き始めること。
たった一人に「今、何に困っていますか」と尋ねてみる
今、伝えようとしている相手は、どこまで知っていて、どこで立ち止まっているでしょうか。
次の投稿をつくる前に、たった一人でもよいので、「今、何に困っていますか?」と尋ねてみる。そこから、伝わる発信が始まるのかもしれません。
よくある質問(FAQ)
相手の現在地は、どうやって知ればよいのでしょうか
いちばん確実なのは、直接尋ねることです。アンケート、ストーリーズの質問機能、個別のやり取りなど、方法は何でも構いません。それが難しい場合は、その方が普段どのような仕事をされているのか、どこに難しさがあるのかを自分で調べます。想像で決めつけないことが出発点になります。
フォロワーが少なく、尋ねられる相手がいないときはどうすればよいですか
たった一人で十分です。過去にご相談をくださった方、体験に来てくださった方、ご家族やご友人でも構いません。実在する一人の言葉は、100人を想像するよりも確かな手がかりになります。
相手に合わせると、自分の伝えたいことが言えなくなりませんか
伝えたいことを変える必要はありません。変えるのは順番と入口です。私も研修の中身そのものは変えず、最初にお話しする体験を、その土地のものに変えました。届けたい内容が同じでも、入口が相手の側にあるかどうかで受け取られ方は変わります。
AIで情報が集まる時代に、自分の体験を書く意味はありますか
一般的な情報はすぐに手に入るからこそ、意味が増していると感じています。その場所を長く見てきた人の記憶や、実際に歩いた人だけが知っている感覚は、検索ですべて見つかるわけではありません。ご自身の現場で見てきたことは、そのまま発信の材料になります。
まとめ|伝えるとは、相手のいる場所から一緒に歩き始めること
大久野島のウサギは、休暇村の近くでは少しツンとしていました。けれど、島の奥まで歩いていくと、数十メートル先から駆け寄ってきてくれました。
同じ島の、同じウサギです。変わったのは、私が歩いた距離だけでした。
発信も同じなのだと思います。伝わる発信は、内容を磨くことよりも先に、相手のいる場所まで歩いてみることから始まります。
次の投稿をつくる前に、たった一人でよいので「今、何に困っていますか?」と尋ねてみてください。そこから、届く言葉が見つかるはずです。
マーケティングの本質×SNSのトレンドを掛け合わせた、SNSからの女性集客を専門としている。14歳でメールマガジンを始め、8ヶ月で20,000人の登録を達成(当時の歴代最年少記録)。個人・法人の500件以上のSNSアカウントを個別に指導。これまでの登壇・研修先は、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など。全国で延べ15,000名以上へ講演・研修を実施している。詳しいプロフィールはこちら。