執筆:上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役|大手企業・公的機関で延べ15,000名以上にSNS研修を実施)

ファンをつくるために、まず何をすればいいのでしょうか。投稿の頻度を上げることでも、写真をきれいにすることでもありません。「誰に喜んでほしいのか」を先に決めることだと、私は考えています。

この記事は、ライターとして〝ファンづくり〟を取材していた時期に、AKB48のマーケティングを調べて書いたものです。当時の気づきは、いまSNSで発信している方にもそのまま届くと思うので、記録として残しておきます。

客席が埋まらなかった頃に、何をしていたか

いまでは信じられませんが、秋葉原の劇場でスタートした当初は、客席がほとんど埋まらない日もあったといわれています。

そのときにプロデューサーの秋元康さんがしていたのは、広告を増やすことではなく、劇場のロビーに出て、来てくれたお客さんに直接、感想を聞いてまわることだったと伝えられています。

聞いた声をもとに運営を少しずつ変えていく。この地道な作業が、のちの人気の土台になりました。人が少ない時期にしかできない打ち手をしていた、とも言えます。

〝会いに行けるアイドル〟という一点突破

AKB48のコンセプトは、よく知られているとおり〝会いに行けるアイドル〟です。テレビの向こうの憧れではなく、劇場に足を運べば会える存在。この一点に、すべてが揃えられていました。

設計の要素 実際にやっていたこと
誰に 秋葉原に足を運ぶ、アイドルが好きな人たち
何を 完成された姿ではなく、努力している途中の姿
どう届けるか 名前を覚え、会話を覚え、一人ひとりを認識する
いくらで ターゲットが何度も通える価格帯に抑える

私がいちばん唸ったのは、いちばん下の行です。どれだけ良いものを届けても、相手の相場から外れた価格では、会える回数そのものが減ってしまう。「会いに行ける」を本当に成立させるには、価格まで揃っている必要があったわけです。

市場を切って、選んで、位置を決める

この設計は、マーケティングでいう「STP」で説明できます。村山涼一さんの『AKB48がヒットした5つの秘密』でも、この観点からの分析が展開されています。

STP やること 一人起業家に置き換えると
セグメンテーション 市場を細かく切り分ける 「女性向け」で止めず、状況と悩みで分ける
ターゲティング 有利に戦える場所を選ぶ 自分がいちばん力になれる相手を1つ選ぶ
ポジショニング そこでの立ち位置を決める その人にとって自分が何の人なのかを言い切る

AKB48がおもしろいのは、メンバーの起用から劇場の運営まで、多くをファンの声を聞きながら決めていったことです。結果として「アイドルをファンがつくっていく」という距離の近さが生まれました。届ける側と受け取る側の境目を、意図的に薄くしていたわけです。

あなたは、誰に喜んでほしいですか

この記事を読んでくださっている方の多くは、アイドルのデビューに関わる予定はないと思います。それでもこの話をお伝えしたかったのは、規模を小さくしてもまったく同じ問いが立つからです。

その問いとは、「あなたは、誰に喜んでほしいですか」です。

ファンになってもらうことを、好かれる工夫や見せ方の話だと思うと、途端に難しくなります。けれど順番は逆で、喜んでほしい人が決まっているから、その人が喜ぶことがわかる。喜んでもらえたから、ファンになっていただける。ここが入れ替わると、発信はどんどん苦しくなっていきます。

「やりたいことがわからない」の正体

「やりたいことがわからない」というご相談をいただくことがあります。お話をうかがっていて共通しているのは、やりたいことが見つからないというより、誰の力になりたいのかが、まだ決まっていないということです。

逆に「この人の役に立ちたい」がはっきりしていれば、やることに困ることはありません。なぜなら、問題は自分ではなく、相手が持っているからです。その人がいま何に困っていて、何があれば嬉しいのか。それを見に行けば、やるべきことは向こうからやってきます。

当時、私が女子会をひらいていた理由

この記事を書いていた頃、私は「人生設計女子会」という集まりを定期的にひらいていました。同世代や少し下の世代の女性に、働き方の選択肢をもっと多く持っていてほしかったからです。何かが起きてから対応するのではなく、選べる自分に先になっておいてほしい、と思っていました。

いま振り返ると、あの活動そのものが答え合わせでした。力になりたい相手がはっきりした途端に、やるべきことが次々と浮かぶようになったのです。企画も、声のかけ方も、当日の中身も、迷わなくなりました。それは10年経ったいまも変わっていません。

まとめ

AKB48の戦略は、ひとことで言えば「誰に喜んでほしいかを決めて、そこに全部を揃えた」ということでした。客席が埋まらない時期にロビーで感想を聞いたのも、価格を相手の相場に合わせたのも、すべて同じ一点から出ています。

ファンをつくりたいと思ったら、まず自分がいちばん力になりたい人を決めること。そして、その人がファンになってくださるくらい、しっかり喜ばせること。順番はいつもそこからです。

上村菜穂 プロフィール写真
著者プロフィール|上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役)

マーケティングの本質×SNSのトレンドを掛け合わせた、SNSからの女性集客を専門としている。14歳でメールマガジンを始め、8ヶ月で20,000人の登録を達成(当時の歴代最年少記録)。個人・法人の500件以上のSNSアカウントを個別に指導。これまでの登壇・研修先は、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など。全国で延べ15,000名以上へ講演・研修を実施している。詳しいプロフィールはこちら

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