恋は人を壊す。
そんな一言から始まるこの物語は、読み終えてみると不思議な感覚で
もちろん共感もできるし腑に落ちるけれど
人が一生懸命にすがる素直な気持ちに触れることもあり
なんとも言い難い気持ちになる。
ある真面目で一見無愛想な女性・水無月の過去の回想がメインで描かれ
恋に落ち、ときに恋に溺れるエピソード。
あるとき井口という若手社員が彼女を振ったことにより、
その彼女が職場に電話をしてきたり押しかけたところを水無月がセーブする。
水無月自身が振られた彼女の気持ちがわからなくもないというところから回想が始めるのだ。
人の本心や憎しみや嫉妬などありのままの人間味ある感情は、
時に人を変貌させてしまう。
小説というものは、色々な人の人生を擬似体験できる
というのをどこかで見たことがあるけれど本当にそう。
文章のみの情報で、その心境から背景、そのときに至るシチュエーションが綴られていて頭の中でイメージをしながら、時には現実では聞けないような主人公以外の心の声も描写されている。
→現実だと誰しもが自分の人生の主人公であって、ほかの人の心の声は聞けない。
この本に限らず小説は、
時に自分と照らし合わせることによって自分の現実を俯瞰する要素にもなる。
なぜなら登場人物のやや過激で時に強烈なストーリーに共感する心情がありながらも、「こんな人がいるのか…」と驚くことも少なくなく、悲しいことや切ないことが自分と似ているようで今の悩みは些細なのかなと励みになることもある。
恋愛小説でも現実でも、自分を幸せにする力のある人は輝き、こういう人同士が結ばれると幸せになれる。
そうではないと依存からよくない歯車がまわってしまうと思った一冊。
【印象に残った言葉】
p37
どうか、神様。
いや、神様にお願いするのはやめよう。
——
どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。だからもう二度と会わないと決めた人とは、本当に二度と会わないでいるように。
私が私を裏切ることのないように。
他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。
P262
逆恨みだの被害者意識だのという言葉が頭の中でぐるぐるまわった。指摘されてみて、私は改めて自分が〝ひどいめにあわされてきた〟と強く思っていたことに気がついた。そうだ、私は親からも夫からもひどいめにあわされたと思っていた。親しいと思っていた人からも、そうでない大勢の他人からも、私は漠然とした敵意のようなものを感じていたように思う。
反発を感じるよりも驚きの方が大きかった。私のしてきたことはただの逆恨みだったのだろうか。
P287
お前は結婚している時奴隷だった、と昨日荻原は言っていた。そうかもしれないと今私は思う。夫の言うことは何でも正しかった。間違っていると内心思っても、夫が正しいことにした。
P354
先生は過去にもしもを持ち込むなと言った。けれど私は後ろを振り向かずにはいられない。どういうふうに人を愛すればいいのか私にはわからなかった。常にベストをつくしてきたつもりだった。